がんばれコンサルタント！ 第618号：コンサルタントが知っておくべき、理解と覚悟の差が生み出すもの

「いま死ぬとしたら、悔いはありますか？」── 以前、親しいS社長さんとゴルフをご一緒して、ラウンド後のお風呂でゆっくりお話していたときに出てきた話題です。この時のことをよく覚えているのは、同様の問いかけに悩んだことがあったからです。

当社の創業は２０１２年ですが、その前年には東日本大震災がありました。多くの方々にとってもまだ記憶に新しく、また非常につらく、悲しい出来事だったと思います。

当時、「多くの人が亡くなる」という現実を目の当たりにして、「自分もいつ死ぬかわからない」ということを自覚し、そして「いま死ぬとしたらどう思うか…」を考えたことがあったのです。

考えた結果は…、「それは困る。絶対に嫌だ！！まだ何もやっていない、もの凄く悔いが残る…」と、強烈に思ったことを覚えています。

誰でも死ぬのは嫌に決まっています。ただ、残念なことに「人はいつか必ず死ぬ」ことになります。生あるものは必ず死を迎えることくらい、誰でも知っていて、理解しているに違いありません。

しかし、「理解している」ことと「覚悟している」とでは、まさに雲泥の違いであり、当時の自分はまさに、「狼狽（ろうばい）」してしまったことをよく覚えています。結果的にそれが当社を始める大きな一因になっただけに、冒頭の問いかけのことをよく覚えている訳です。

当社を立ち上げ、自分なりにがんばりました。色々なことがありましたが、ありがたいことに同様のことで悩むことがなくなったのは、とても大きいことだと思います。

決して願っていることすべてが叶った訳ではありません。しかし、夢に向かって現実的な一歩を踏み出したことで「まだ何もやっていない…」といったマイナスの気持ちはいつしか消えて、「少しずつでも近づく努力をしている」ことを自分が納得し、実感するようになったからです。

お風呂場でS社長さんはニッコリしながら、「そりゃ～死にたくはないですよ、でも今死んでも悔いはありません」と、独特の福島なまりであっけらかんと言われ、お互いに大いに笑ったのを昨日のことのように覚えています。

人生は、逡巡して過ごすにはあまりにも短く、しかもその時間がどれだけ残されているかも教えてもらうことができません。

だからこそ、過去や後ろを見て「やりたかった、やっておけば…」と後悔するよりも、たとえ失敗しようが、未来や前を向いて「あれをやる、その次は…」と挑戦する時間を一秒でも増やしたほうが、楽しく笑って生きられる時間も増えるに違いありません。

これまでになかった教育ビジネスを興されたS社長は、事業家として業界に大きな一石を投じられた方です。「変えたい」という熱意、エネルギーで多くの教育関係者に影響を与え、業界の未来に対して、一代で新しい道筋を立てていかれたのです。

それと同時に、教育者としても常にエネルギーを発していた方です。社員の方々にはもちろんですが、ビジネスで関係する人に分け隔てなく優しく接してくれました。

コンサルタントがクライアント先に指導…とは、言葉としては合っているかもしれませんが、「S社長から教えていただいた」ことに感謝しているコンサルタントの仲間は、本当に大勢います。

人懐こく、独特の少しなまった言葉で誰彼問わず話しかけては笑わせて、時には鼓舞し、元気づけながら、はっとさせられる教えを与えてくれる…。

お会社のことはもちろんでしたが、日本の教育やこれからの若人のために自分たちは何ができるのか…ということを、冗談交じりに話されながらもどこか超真剣だったのが思い起こされます。

本当に見事な生き様だったと思います。壮大な夢を描かれていた方だけに、まだまだ夢の実現には程遠かったに違いありません。そこは残念だったかもしれませんが、しかし、たとえ道半ばであったとしても、お風呂場で笑いあったときのように、決して悔いはなかったと思います。

自分もより一層悔いのないように、自分のやらなければならないことに対して尽力していきたいと思います。そして関わるすべての方々に、悔いのない生き方を願ってやみません。

S社長は、いつも当社ならびにコンサルタント仲間のことを気にかけてくださいました。そんなS社長のご冥福をお祈りしてこのコラムを捧げます。S社長の壮大な夢の実現に微力ながらもご奉公いたしたいと思います。